ソレント木象嵌

 

 木象嵌とは、木地の表面(平らな面、丸みを帯びた面、あるいは軽い凹凸のある面)を装飾する技術のことです。その技法は、様々な調子の色が、単色の背景と混ざり、調和のとれたコントラストを示すことによって支えられています。

 製法としてはまず、厚さ0.5ミリから0.9ミリの薄い経木を重ね、色彩の組み合わせを考えて種板を作ります。次にそれを、糸鋸を使って、下絵通りに切り抜いてゆきます。その際、曲線、折れ線を忠実になぞり、図案の持つなめらかさを損なわないようにしなければなりません。切り抜いた木端は変化に富んでおり、なかには非常に細かいものもあります。

 切り抜き作業の後は、その木端をいわゆる「モザイク片」として、元の図案を再構築する作業に入ります。必要なモザイク片を、切り抜いた箇所毎に、色使いによって選り分けてゆきます。選り分けると、その一部を部分的に熱い砂に埋め込み、その部分を濃くすることによって、色合いに変化をつけます。

 当社の設備は小規模なため、量産には限界があります。種板24枚から最多で36枚しか一度に切り抜き作業を行えません。そのため、また種板一枚一枚が全く同じであることはないため、出来上がりも一様ではありません。言いかえれば、それぞれが準オリジナルな作品であると言えます。種板約24枚毎の反復作業とはいえ、当社では特注品も承っており、色、大きさ、構成、用途に関する要望があれば、アレンジも可能です。

 同じ技法を用いて、建物、家具などの装飾用に、または壁掛けとして、風景絵図も作成します。ここでは、前述のように一枚の種板を切り抜き、嵌め込み(象嵌)作業をするのではなく、それぞれ別に象嵌を施した、種板の小片を、パズルのように組み合わせて絵図を作り上げてゆきます。この寄木の技法も用いた象嵌細工の主な特徴としては、空を表現するのに橙系の種板を、海を表現するのに淡黄系の種板を用いる点が挙げられます。

 種板への象嵌作業を終えると、あらかじめ木工場で作られた木製品(心材、あるいは合板使用)に張り付け、木地調整および艶出し作業に入ります。木地を研いでなめらかにし、続いてワックス、ラッカーなどで艶出ししますが、当社では主にポリエステルのような特別な塗料を使っています。ポリエステルの特質を活かすには、丁寧な研ぎ、サンドペーパーかけ、ブラシかけが欠かせませんが、その独特の光沢、あるいはビロードのような柔らかな質感を持った、不透明な仕上がりこそが、ソレント木象嵌の特色となっています。